第６章：運命の朝
（１）
〔夜・庭〕
私はランタンを右手に、バスケットを左手に持ってお屋敷を出た。
後は…約束の場所を目指すだけだわ。
？：お嬢さん。
主：！？
突然暗がりの中から聞こえてきた声に、私は思わずランタンをかざした。
Ｈ：お嬢さん、ジャックに代わってお迎えに上がりました。
主：ルディ…？
ランタンの光に照らし出されたのは、金色の人形…ホブルディだった。
Ｈ：ふふっ……なんていうのは嘘だよ、お嬢さん。
僕がここに来たのは、ジャックの使いなんかじゃない。
ま、いわゆる“好奇心”ってやつかな。
ルディはすでに、私たちの状況を知っているのだろう。
Ｈ：ところでさ。
君、逃げるならこれが最後のチャンスだよ。
主：え？
Ｈ：さっきも言ったけど、僕は君を引っ立てに来たわけじゃないんだ。
ジャックは同じ精霊人形だし、解放を望む気持ちもわかる。
でも、だからって僕は、ジャックの解放に積極的なわけでもない。
正直、彼が解放されようがされまいが、僕はどっちでもかまわないからね。
だから、もし君が逃げたければ、見逃すぐらいはしてもいいと思ってる。
当事者でない気楽さからだろうか。
ルディの口ぶりは軽かった。
主：……………。
ありがとう、ルディ。
でも、私は逃げるつもりはないの。
Ｈ：……………。
私の答えに、ルディはなんだか複雑な表情を浮かべていた。
Ｈ：ふーん…。本当の本気なんだね、君は。
君のやさしさは、上っ面だけじゃないってことか。
主：え？
Ｈ：ううん、こっちの話。
ねえ、それよりさ。約束の場所まで歩いていくつもり？
主：ええ。そうだけど…。
Ｈ：２時間近く歩くよ？
主：そうね、けっこう遠いわね。
でも、なんだか歩きたい気分なの。
それにほら、軽食も持ってるし。
私は、手にしたバスケットをルディに見せた。
Ｈ：…………。〔苦笑〕
まるでピクニック気分だね。
これから人生最大の大舞台に上がろうってのに、呑気だなあ。
…………。
鼻で笑われてしまった。
こういうの、ヘンなのかな…？？
主：じゃ、そろそろ行きましょうか。
ジャックが待ってるわ。
Ｈ：……そうだね。
そう答えたルディは、私の手からランタンを取り、私に代わって足元を照らしてくれた。
Ｈ：お嬢さん。
約束の場所まで、僕が貴女をお守りしますのでどうぞご安心を。
金色の人形、ホブルディ。
彼の少し芝居かかった仕草とその微笑みは、私を覆っていた不安をいつしかやわらげてくれていた。
主：…ありがとう、ルディ。さあ、行きましょう。
〔夜空〕
空には星が瞬いていた。
私は、これまで何度こうして星空を見上げてきただろう。
夜空を飾る星はこれまでと変わらないはずなのに。
今夜はその砂粒ほどの輝きの１つ１つが、強く胸に迫るように感じられた。
…１時間ほど歩いただろうか。
主：あそこで少し休みましょう。
〔大木〕
私は、１本の大木の下に腰を下ろした。
ルディも私に並んで座る。
私はバスケットを開けた。
中身は、小さな水筒とジンジャーブレッド。
まだ温かいお茶を水筒から注ぎ、私はブレッドをほおばった。
生姜の風味と、砂糖の甘味が口に広がる。
素朴であたたかい味だった。
主：ルディ、このお菓子ね、叔父さまが焼いたものなの。
叔父さまは昔から、遊びの延長のような感覚でお料理を作ってくれるところがあって、これもそんな理由で焼かれたものだった。
Ｈ：…確か、サイラス・リードっていったね。
主：え？ルディ、叔父さまを知ってるの？
Ｈ：１度だけだけど、屋敷にやって来てね。
彼ってさ、結構厚かましい…じゃなくて、フレンドリーだよね。
叔父さま、いつのまにかルディを見に行ってたのね…。
もしかして、他の皆にも会いに行ってたのかな？
主：…ふふっ、そうね。たまにちょっと調子よすぎるかな。
叔父さまの軽妙な口調と仕草を思い出す。
………叔父さま…。
まさかこんなことになってるなんて、夢にも思ってないわよね…。
主：…ねえ、ルディ。叔父さまはね。
明るくて、やさしくて、頼りになって…こんな風にお菓子まで焼いてくれて、本当に素敵な叔父さまなんだけど…。
私は叔父さまが心配なの。
Ｈ：？
主：だって、叔父さまは家庭を持ってないから。
そう。叔父さまは独り身なのだ。
奥さんがいて、子供がいるのが普通の年齢なのに。
その…叔父さまには叔父さまの考えや事情があるのだろうと思うわ。
だけど…。
主：私が口を出すようなことじゃないのはわかってる。
でもね、人が生きていくには、愛情で結ばれた誰かが必要だと私は思うの。
だから、もしジルがこの先叔父さまの人形になってくれたら、本当にうれしい。
たとえそれが、いわゆる家族というものとは違うとしても、精霊人形は十分“愛情で結ばれた誰か”たりえる存在だと私は思うわ。
それに。
Ｈ：「それに」？
主：それに、叔父さまのことは別にしても、ジルにはこの先もずっと生き続けて欲しい。
幸せは、生きているからこそ感じられるんだもの。
凍結してしまったら…その時間は死んでいるのと変わらないわ。
Ｈ：………………。
…あれ？
今日の私、なんだかおしゃべりだ。
なんだか気持ちがうわずっている。おしゃべりせずにいられないような気分。
私は、自分は冷静だと思っていた。
でも、本当はそうでもないのかもしれない。
それに…ルディ。
Ｈ：……………。
話し相手が“人形”だということも関係しているのかもしれない。
精霊人形は“人形”と呼ばれ、確かに人形的なところもあるけれど、“ただの人形”とは明らかに別物だ。
でも、人間と対峙するときに感じる、遠慮や警戒心をあまり感じさせないのは。
すべての人形が、人間の心をその器に受け入れ、慰めるために作られた存在だからだろうか？
それとも、彼らが人間の住む世界とは別の世界からやって来た異邦人だからだろうか…。
主：ルディ。
Ｈ：何？
主：ルディはとても綺麗ね。
Ｈ：…………。
ありがとう。〔にっこり〕
僕も自分でそう思うよ。
いつ鏡で見ても、我ながらつくづく綺麗だなって。
主：ふふっ。
ルディのおどけた口調に、私は少し笑ってしまった。
Ｈ：ま、美貌は人形の武器だからね。
最大限利用させてもらってるよ。
ほら、こうやって笑えば。
そう言うと、ルディは私に、にっこりと笑って見せた。
Ｈ：たいがいの頼み事は聞いてもらえるし。
こう、悲しげな顔をすれば。
今度は、眉をよせて目をふせて見せた。
Ｈ：うっかり卵を10個割っちゃった…なんて失敗も大目に見てもらえる。
……ねっ？
最後、ルディはいたずらっ子のような顔で笑っていた。
主：ふふっ。
私は、ルディのくるくると変わる表情に、また笑っていた。
もしかしてルディは、私を慰めようとしてくれているのかもしれない…。
ルディのやさしさを噛みしめながら、私はさっきのルディの言葉を反芻していた。
「美貌は人形の武器」
人形たちにとって、人間を魅了する容姿であるか否かは、死活問題なのだろう。
だって、精霊人形は、人間に気に入られなければ生きられないから。
………でも、人間にとって人形の美しさは…。
主：ねえ、ルディ。
ルディに限らず、精霊人形はみんな本当にとても綺麗ね。
Ｈ：うん……まあ、そうだね。
主：私、思うの。
すべての精霊人形があんなに綺麗なのは、精霊人形には人間の理想が込められているからだって。
人間に美しい夢を見せてくれること…それもきっと、精霊人形にとって大切な役目なのね。
Ｈ：……………。
私は水筒をバスケットにしまうと、スカートを軽く払って立ち上がった。
主：そろそろ行きましょう。
それから私たちは再び１時間ほど歩いた。
夏の朝は早い。辺りに漂い始めた淡く白い光は、たちまち闇を薄めてゆく。
いつしか、ランタンの灯は必要なくなっていた。
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（２）
〔レインフォーヴの丘〕
向こうに人影が見えた。
人影は全部で３つ。
３人…つまり、３体の精霊人形が私を待っているのだろう。
Ｊ：よく来たな、アストリッド。
Ｗ：…………。
Ｉ：…………。
思った通り、いたのは３体の精霊人形、ジャック、ウィル、イグニスだった。
そして、私と一緒に来たホブルディ。
つまり、ジルを除くすべての精霊人形が、今ここに集まっているのだった。
ウィルとイグニスは無言だった。
そしてルディも。
３人は解放を見届けに来たのだろう。
精霊人形の解放は、たとえ自分自身のことでなくても、人形たちにとって大きな意味を持っているのだ。
少なくとも彼らは、解放を止めるためにここにいるわけではない…私はそう思った。
Ｊ：アストリッド。解放を実行に移す前に、聞いておきたいことがある。
なぜおまえは、俺に魂を譲ろうと思ったのだ？
命あるものは皆、死を恐れる。
死は、おまえにとっても恐ろしいもののはずだ。
到着したばかりの私に、ジャックは問いかけた。
ジャックは、疑問を残したままにしたくなかったのだろう。
………そうね。
このまま私が何も語らなかったら…ジャックの疑問は永久に消えないことになってしまう。
だったら伝えておくべきなのかもしれない。
……うまく説明出来る自信はなかったけれど。
主：………私は。
精霊人形が解放を望むのは正しいと思うわ。
Ｊ：…………。
精霊人形は、魂の不完全さゆえにとても不安定な命だ。
そのために、精霊人形は人間に隷属しなくては生きられない。…どれほど人間を怨み、憎もうとも。
その精霊人形が、他の生命たちと同じ“自立した命”を欲することを。
自分が自分の器の主でありたいと望むことを。
………どうして止めることが出来るだろう。
主：それに私たち人間は、これまであなたたち精霊人形をずいぶん虐げてきたんでしょう？
あの日のジャックを思い出す。
人間たちは人形の命を盾に、どれほど人形たちに献身を強いてきたのだろう。
そして人間たちはどれほど人形たちに、暗く、身勝手な欲望をぶつけてきたのだろう。
人間の身代わりとして。
主：私は、人間の罪を贖いたい。
人形たち：…！
主：もちろん私の魂１つで、すべての罪が許されるなんて思ってない。
でも１つの魂で１体の人形が自由になれるなら、少しは罪滅ぼしになるわ。
そのとき。
■選択肢■
▼蹄の音、車輪が軋む音が聞こえてきた。〔→分岐Ａ：引き続き下へ〕
▼鋭い叫びが、空を切り裂いた。〔→分岐Ｂ〕
〔馬車の音〕
Ｊ：！
見ると、馬車がこちらへ近づいてきていた。
馬車は私たちのいる場所からだいぶ手前で止まり、誰かを降ろすとそのまま逃げるように走り去った。
人影はこちらへと向かっていた。
でもその歩みは、不自然なほど遅かった。
主：……！
ジル！？
Ｇ：……………。〔虚ろな目・顔面に亀裂〕
馬車から降りた人物。
それはジルだった。
どうして！？
休眠から覚めるは早すぎる。ジルはまだ動けないはずだ。
それなのに動いたせいだろうか…彼の顔には亀裂が入っていた。
Ｇ：……………。
と、突然ジルは体勢を崩し
〔転倒音〕
倒れた。
主：ジル！！
私は思わずジルに駆け寄った。
駆け寄って地面に膝をつき、倒れたジルの上体を抱き起こす。
Ｇ：……………。
亀裂の入った肌。虚ろな眼差し。表情のない顔。強張った四肢。
抱いた彼の体に、肉体のしなやかさはまったく感じられなかった。
ジル…。
こんな体で…私を止めに来たの？
自由のきかない、こんな体で。
私は胸が一杯になった。
辛い？悲しい？切ない？…うれしい？
それらは交じり合い、私の胸にせり上がって来た。
…これはきっと、“愛しい”という感情だ。
胸に満ちてきた愛しさは、最後涙となって私の目からこぼれ…。
腕の中の、ジルの頬に落ちた。
Ｊ：………おまえは、ジルを“愛している”のだろう？
私は頷いた。
Ｊ：“愛”か。
人間は、ことさらそれを崇め、至上の価値があるかのように語るが…俺にはよく理解できん。
…しかし。
…………。
ジャックは、ふいに言いよどんだ。
Ｊ：本来、休眠中の人形が動くなどありえないことだ。
そのありえないことを引き起こした理由が、ジルのこの娘への愛だとでも言うのか…？
独り言のようにそうつぶやいて、ジャックはジルを見た。
傷つき、力尽きたジルを。
Ｊ：アストリッド。
低く、無表情な声が私の名前を呼んだ。
Ｊ：おまえがジルを愛しているというのなら、なおさら死は恐ろしいもののはずだ。
愛は、生への執着を強めるものではないのか？
灰色の瞳が私を捕らえる。
硬質で、冷たくて。そして真っ直ぐな２つの瞳。
それは、たとえどんな問いであっても、私のすべてを以て応えたい…そんな気持ちを強く掻き立てる瞳だった。
主：…………………。
…………ジャック。
…私はジルが好きよ。
ジルの側にいるだけで、幸せで胸が一杯になって。
でも、ときどき、どうしようもなく不安で…切なくて…。
こんな風に、誰かのことを好きになったのは初めてだった。
もしもジャックが言うように、ジルも私のことを愛してくれていたら、こんなにうれしいことはないわ。
……でもね、ジャック。
私がいなくなっても。
ジルには、また新しい誰かが現れるわ。
ジルを心から愛する人が。
そして、ジルが心から愛する人が。
私は。
両親を続けて失ったとき。中傷の的にされたとき。お爺さまを亡くしたとき。
とても悲しくて。とても寂しくて。とても辛かった。
悲しみの只中、私はどうしたらいいのかわからず、ただ立ちすくんでいた。
だけど。
…叔父さま、お爺さま、お友達…そして、精霊人形ジル。
私を取り囲む人たちと、繰り返される昼と夜は、私を慰め、励ましてくれた。
あの頃の悲しみは、今は私を苦しめるものではなく、私を支えてくれている。
きっとジルも…これまでたくさんの悲しみと苦しみを乗り越えて、今日まで生きてきたはずだ。
だって人形の彼は、人間の私よりずっと長い時間を生きてきたんだもの。
私も…いずれ、彼の思い出の１つとなって…願わくは彼の支えでありたい…。
主：だけど、ジャック。
ジャックには、私しかいないものね。
Ｊ：……………。
そう。彼には私しかいない。
今、彼に自由をあげられるのは、私しか…！
主：ただ、ジャック。これだけは覚えておいて。
私があなたに魂をあげようと思ったのは、さっき言った理由もあるけれど。
もう1つ加えるなら、あなたがジルの仲間だったからよ。
Ｊ：……？
主：ジルがジャックのことを、口に出してそう言ったわけじゃない。
だけどね、精霊人形にとって精霊人形は、ただ精霊人形であるというだけで、かけがえのない存在だわ。人間にとって、人間がそうであるように。
私が愛する人の大切な人だったから、私はあなたに魂をあげたいと思った。
私がジルと過ごしたおよそ２ヶ月。
その２ヶ月という時間は私にとって。
ジルが…精霊人形が、あまりにも人間に似た“稀有で不思議な人形”から。
彼らになら何を差し出しても惜しくないと思うほど“愛しい人形”へと変わるのに、十分な時間だった。
ふと、叔父さまの言葉が脳裏をかすめた。
叔父さまの言葉…「人形に溺れる」…。
これから自分がしようとしていることを間違っているとは思わないけれど。
こんな自分を愚かだとは、少し思う。
…………………。
……ああ、でも。
そんなことはどうでもいいわ…。
私との出会いが、この美しくも哀しい人形たちの幸せに繋がっているのなら。
もう、何も…。
私はもう１度、腕の中のジルに目を落とすと、彼の頬に落ちた自分の涙を拭った。
なんだかジルが泣いているみたいで、嫌だったから。
主：ジル……私、うれしかった。
まさか、もう１度あなたに会えるなんて思ってもいなかったから。
本当にありがとう…。
Ｇ：……………。
ジルは何も応えなかったけれど。
私はとても満たされた気持ちだった。
だって。
私はこんなにも強く、ジルに愛されていたのだと知ることが出来たのだから。
無言のジルを地面にそっと横たわらせ、私はゆっくりと立ち上がった。
そして眦に残った涙を拭い。
１つ深呼吸をする。
私には、ジャックに魂を渡すと決めたときから、考えていたことがあった。
主：ジャック。最期にお願いがあるわ。
大丈夫。
大丈夫……ちゃんと、言える…。
Ｊ：………何だ。
主：剣を私に貸して。
魂は自分で取り出すわ。
Ｊ：……………。
今、何と言った。
主：魂は、自分で取り出すって言ったの。
だからその剣を私に貸して。
Ｊ：…………？
主：ジャック。あなたの新しい人生がこれから始まるのよ。
その門出を血で汚してはいけない。罪と引き換えに得た自由ではいけないわ。
だから魂は私が自分で取り出す。
その剣で胸を突けばいいんでしょう？
Ｉ：…位置的には鳩尾だ。
主：…わかったわ。鳩尾を狙えばいいのね。
人形たち：……！
Ｊ：…………。
ジャックは訝しげに私を見ている。
そうよね。もし、その剣を奪って逃げられたら、機会は失われてしまう。
簡単には信用してもらえないかもしれない。
でも同じ魂なら、罪に塗れた魂ではなく、何ら疚しさのない魂をジャックに受け取って欲しかった。
人形たち：…………。
沈黙が続く。
ジャックは、私の気持ちを受け入れてくれるだろうか…。
Ｈ：………僕は。
沈黙を破ったのはルディだった。
Ｈ：彼女を信じるよ。
その子の言葉に嘘はないと思う。
ルディ…！
Ｗ：俺もそいつを信じるぜ。
どうやらそいつのお人好しは筋金入りのようだからな。
ウィル…。
２人ともありがとう。
Ｉ：その娘に、我々を出し抜けるほどの才覚があるとは思えん。
イグニスの言葉も、結果的に私の意志を尊重してくれるものだった。
Ｊ：…………。
ジャックは、しばらく押し黙っていた。
でも。
Ｊ：……いいだろう。
そう言ってジャックは、無造作に剣を投げてよこし、私はそれを受け取った。
主：ありがとう、ジャック。
Ｊ：…………。
改めて短剣を見る。
それは刀身に複雑な切れ込みの入った、珍しい形状の剣だったけれど、魂を取り出すなんて不思議な力が宿っているようには見えなかった。
私は、それを両手で逆手に握った。
これで私は自分の胸を突いて…私は死ぬ。
この期に及んで私はまだ実感がわかなかった。
冷静…と言うより、心が、体が、麻痺しているのかもしれない。
でもふとしたきっかけで、死への恐怖が噴き出しそうで、それが怖かった。
急がなくちゃ。
恐怖に目をつぶっていられるうちに、すべてを終わらせなくては…！
痛みをこらえて２度自分の胸を突ける自信はない。
だから１度で…一撃でやらなきゃ。
ためらったら絶対にダメだ。
私は、すべての精霊人形たちの顔を見た。
薔薇色の人形、ジル。
緋色の人形、ウィル。
金色の人形、ホブルディ。
銀色の人形、イグニス。
……漆黒の人形、ジャック。
命を得た奇跡の人形たち。
精霊人形たちは、私に素晴らしい夢と、ときめきを与えてくれた。
まさかこんな幕切れになるとは思わなかったけれど…。
でも、出会ったことを後悔はしていない。
最期にもう１度、私はジルに目をやった。
Ｇ：………………。
ジル…さようなら…。
私の、お人形さん…。
私は、一息に剣を胸に突き立てた。
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