エピローグ
〔食糧雑貨店〕
W:お前が帰ってくると、買い出しが増えて面倒くせえんだよな。
主:…ごめんなさい。
私とウィルは、街で1番の品揃えを誇る食糧雑貨店で買い物をしていた。
私がこの街に帰ってくるのはおよそ1ヶ月半ぶりだ。
授業編成の関係でお休みが続いたため、それを利用して私は帰省していたのだった。
ウィルは皮肉屋で、素っ気なくて、たまにちょっと意地悪で…相変わらずという感じだったけれど。
整えられたリビングやエントランス、手入れされた庭には、普段のウィルの仕事ぶりが表れていた。
ウィルは“人”に対しては斜に構えているけど。
自分の仕事には誠実なんだ…。
そう思うと、私はちょっと頬がゆるんでしまうのだった。
W:…1人でニヤニヤして、不気味なんだよ。
うっ、また突っ込まれた…。
ウィルの辛辣な言葉は嘘ではない。
でも、だからといってまったくの本心というわけでもなく。
……言い方の癖、とでもいうのが1番近いのかもしれない。
それがわかっているから、私は彼のどんな皮肉も結局は許せてしまう。
……気を取り直して、と。
私は商品棚に目をやった。
そこは手芸用品の売り場で、計り売り用の布、端切れの束、刺繍糸、ボタンなどが所せましと置かれていた。
そんな中、私の目を引いたのは色とりどりのリボンだった。
赤・菫・紫・ピンク・オレンジ・若草・緑・青・水・黄…。
整然と並んだ華やかな色合いは目に楽しく、必要かどうかは別にして、つい手に取りたくなってしまう。
私は、リボンを次々と取り換えて見入っていた。
W:何だ。買うのか?
主:んー…、どうしようかな…。前、ウィルに黒は辛気臭いって言われたし。
ウィルは髪を飾るリボンなら、ピンクとか赤とか、女の子らしい綺麗な色が好きなの?
W:……バカだな、お前。
主:?
W:黒はシックだし、細身なところも悪くないなんて、思ってもアホらしくて言えるか。
主:…え?
じゃあ、ウィルは最初からずっとそう思ってたの?
W:…!〔言葉に詰まる〕
W:…………。〔気まずい顔〕
言い返さないってことは…図星だったのかな?
W:…まあ、俺はリボンが何色だろうが、結ぶよりほどく方に関心があるがな。
……?
………!
ええッ!?
W:さてと。
そう言ってウィルは、私の頭をポンと叩いた。
たぶん彼は、何気なくそうしただけだろうけど。
頭上をかすめたウィルの手は、旋風のように私の心をさらい、その涼しげな瞳の奥へと閉じ込めた。
W:………ふっ。
茹でたエビみたいな顔してボケッとつっ立ってねえで、さっさと帰った方がいいんじゃねえのか?
主:え?
再び、彼の手が私に触れてきた。
さっきはまるで無造作だった手が、今度はやさしく私の額をなで上げ、前髪をじゃらすように掻き混ぜた。
W:俺も手伝ってはやるが、今夜はお前が食事の用意をするんだろ?
そう。
今日はこれから、叔父さまとルディが帰ってくるのだ。
きっと、にぎやかな夜になる。
『人形と解放』編(ひとつめのおはなし)W:1st doll解放Ver. END(1)